YIAへの道標
<年次学術大会 最優秀賞>

【企画要旨】

当学会の年次学術大会では、原則として専門家のみが口演で発表が可能である。その中から、45歳以下で毎年最も優れた発表に対して与えられる賞が最優秀賞 (Young investigator Award: YIA)である。
第一次選考は、学術専門委員と専門家が審査員として各演題にランダムにわり付けられ審査される。最終選考は、年次学術大会最終日の午後に最終候補者による発表会で行われる。この最終審査の審査員は内外のエキスパートで構成される。いずれの選考も、共著者及び同じ所属の者は審査員になれない。このような厳正な審査プロセスを経てYIA受賞者が選ばれる。
今回若手会員にとってのYIAの意義について考えるパネルディスカッションを企画した。歴代のYIA受賞者に、自身のキャリア形成やその後の研究にとってどのような影響があったのかを語ってもらう予定である。

【座長】

竹島 太郎
埼玉県立大学

【演者】

第1回受賞者 福間 慎吾(京都大学)

未来志向メンタリング付きYIA

2017年に「慢性腎臓病診療の質と末期腎不全の関連」でYIAを受賞させて頂きました。多くの方のアドバイスを基に可視化できた研究成果を学術大会の大きな会場で発表し、良い評価をいただいた事は研究者として大きな励みになりました。臨床疫学会は、参加者の多くが、大学や領域の枠を超えて建設的な議論を行い、日本発の臨床疫学研究のレベルを上げる貴重な場所だと感じています。YIAのプレゼン時には、各領域の専門家の先生方から次の研究に繋がるヒントを多く頂きました。YIAは過去の研究成果を表彰するだけでなく、これからの研究に対するメンタリングを受けられる場所だと感じました。これからYIA受賞を目指す後輩たちに還元ができるように、自分を鍛えて臨床疫学研究を発信していきたいと思います。

第3回受賞者 柴田 舞欧(九州大学大学院)

YIAを受賞して

大変栄誉ある日本臨床疫学会のYIAに選出いただきまして誠にありがとうございました。私は2010年より久山町で心理社会的因子についての疫学調査を開始し、一人一人に直接接する形での地道な研究を続けてきました。孤独感と認知症発症のテーマでYIAを受賞させていただいた2019年はちょうど節目である10年目にあたり、ようやく追跡研究ができるくらいにデータが蓄積した頃でした。ともに苦労してきた研究室の仲間への感謝と一つの成果を実感できる良い機会となりました。その後は、九州大学の衛生・公衆衛生学分野の助教に採用され、JPSC-AD研究の中央事務局長として認知症の全国調査をサポートするとともに、久山町での高齢者調査をマネージメントしています。昨今は個人情報保護法や倫理指針の改訂もあり悉皆調査の難しさを感じておりますが、60年間で築き上げられた地域住民との信頼関係に支えられています。これからも研究成果の地域住民への還元と論文化を通じて世界各地の医師から地域医療へ還元されていくことを目指して、継続して参りたいと思っています。

第4回受賞者 山崎 大(京都大学)

自分がどんな研究者なのかを教えてくれたYIA

私は脂肪肝や脂肪膵といった臓器の脂肪蓄積と糖尿病について、卒後5年目から約10年間研究してきました。しかし、意外なことかもしれませんが、YIAを受賞するまで、自分が何の研究者なのかわからずにいました。それはこれまでの研究の軌跡を振り返る機会がなかったからです。「非肥満者における脂肪膵と糖尿病の関連」でYIA候補となったとき、メンターの一人が発表練習を何度も聞いてくださり、「自分が行ってきた研究の物語を話すように」というアドバイスを頂きました。自分の研究の物語を話すため、これまでに行ってきた7つの脂肪関連研究を振り返り、初めて自分が「脂肪の適正分布により、非肥満者の生活習慣病予防を実現しようとする研究者」だと自覚できました。厳正な審査を受けてYIAを受賞できたことで、研究の方向性がさらに明確化しました。そして現在は様々な臓器の脂肪分布を研究し、国際共同研究を米国糖尿病学会誌Diabetesに掲載できるまでに研究が発展しました。YIA受賞はこれまでの10年を振り返る機会と、これからの10年を歩むための道標を与えてくれました。

【プロフィール】

福間 真悟(ふくま しんご)
医師、医学博士
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授
日本臨床疫学会 上席専門家
予防・医療・介護の多様なフィールドで、臨床疫学と関連学術領域(各専門臨床領域、情報学、行動科学、行動経済学)を融合させたアプローチを実装し、医療の質向上、患者・住民の健康行動の改善、予防・医療の制度設計の改善を達成することで、社会の健康課題解決を目指している。
柴田 舞欧(しばた まお)
医師、医学博士
九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野 助教
日本臨床疫学会 臨床疫学認定専門家、社会医学系指導医・専門医
東京都出身。1996年清泉女子大学文学部卒業。2004年杏林大学医学部卒業。2006年九州大学病院研修医。2008年九州大学病院心療内科入局。2010年より久山町研究に携わり、心身医学的疫学研究を開始。2016年JPSC-AD研究中央事務局長就任。2021年より現職。心療内科医として患者を診つつ、疫学研究を継続している。
山崎 大(やまざき はじめ)
京都大学 地域医療システム学/臨床疫学 特定講師
北海道旭川市出身。2008年宮崎大学卒業。札幌の手稲渓仁会病院で8年間、消化器内科医として研鑽を積む。2016年京都大学大学院に入学。福原俊一教授のもとで臨床疫学を学び、2019年医学博士号取得。脂肪肝や脂肪膵などの脂肪分布に関する臨床疫学研究と、炎症性腸疾患のPRO/レジストリー研究を行うとともに、臨床研究教育に携わる。消化器・内視鏡・肝臓・総合内科専門医。日本炎症性腸疾患学会評議員。臨床疫学会上席専門家。