脳画像データを用いた疫学研究

【企画要旨】

近年、脳構造や機能を間接的に測れる脳画像技術が急速に進歩し、精神疾患の脳基盤について徐々に明らかになっている。
さらに、従来の疫学研究のデータや医療データと脳画像データを組み合わせることにより新たな知見が生まれることが期待される。
本シンポジウムでは脳画像データを用いた新たな疫学研究の実践についてご紹介いただく。

【座長】

二宮 利治
九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野

【演者】

「脳画像データを用いた研究の最新知見について」

瀧 靖之
東北大学 加齢医学研究所 教授

  • 瀧 靖之

「脳画像データを用いた疫学研究:久山町研究やJPSC-AD研究の知見」

平林 直樹
九州大学大学院医学研究院 心身医学/衛生・公衆衛生学

  • 平林 直樹

【抄録】

「脳画像データを用いた研究の最新知見について」
日本が直面している超高齢化社会において、脳の病的な加齢を可能な限り抑えることは重要である。我々はおおよそ3000人、5歳~80歳の健常小児~高齢者の脳MRI、認知力、生活習慣、遺伝子等のデータを収集し、横断的、縦断的な脳画像データベースを作成している。これらのデータを用いて、脳MRI画像からみる健常な脳発達、加齢を明らかにし、更にどのような生活習慣などの要因が脳発達、加齢に影響を与えるかを明らかにしてきた。更に、脳MRI画像解析に関しても、Voxel-based morphometryやCortical Thickness解析に加え、近年はdeep learningを用いた画像解析手法が出てきている。
本講演では、これまでの脳画像解析研究を概観するとともに、deep learningを用いた脳画像解析手法と脳画像を用いた疫学研究、認知症予防への応用を述べていきたい。
「脳画像データを用いた疫学研究:久山町研究やJPSC-AD研究の知見」
わが国は超高齢社会を迎え、認知症患者の増加が大きな問題となっている。認知症の成因は未だ十分に解明されておらず、根本的な治療法も確立されていないため、疫学研究を通じた認知症の危険因子・防御因子の解明は急務といえる。近年、画像解析技術の進歩により頭部MRIを用いて部位別脳容積の定量的計測やvoxel-based morphometryによる萎縮パターンの解析が可能となり、様々な精神神経疾患の脳基盤について解明する事に貢献している。福岡県久山町の疫学調査(久山町研究)や全国8地域の高齢住民を対象とした認知症コホート研究(JPSC-AD研究)では、認知症の評価に加えて頭部MRI検査による脳の形態学的評価を行っているため、認知症の実態と危険因子について、従来の疫学研究のデータと脳画像データを組み合わせて多面的に評価することが可能である。本シンポジウムではこれらの検討により明らかとなった生活習慣や心理社会的要因などと脳の形態学的変化との関連について報告する。

【プロフィール】

二宮 利治
九州大学大学院医学研究院 衛生・公衆衛生学分野
1993年 九州大学医学部卒。2000年 九州大学医学博士取得。2003年 久山町研究、学術研究員。2006年 シドニー大学ジョージ国際保健研究所に留学、その後九州大学病院助教、シドニー大学留学(2度目)、九州大学附属総合コホートセンター・教授を経て、2016年 同大学 衛生・公衆衛生学分野・教授に就任。
瀧 靖之
東北大学 加齢医学研究所 教授
現職
  • 東北大学 スマート・エイジング学際重点研究センター 副センター長
  • 東北大学 加齢医学研究所 臨床加齢医学研究分野 教授
  • 東北大学発スタートアップ企業 株式会社CogSmart 代表取締役
略歴
  • 平成5年 東北大学理学部卒業、同年に東北大学医学部入学。
  • 平成11年 東北大学医学部卒業、東北大学大学院医学系研究科博士課程入学
  • 平成15年3月修了。
  • 平成15年4月より東北大学病院医員
  • 平成16年より東北大学加齢医学研究所助手
  • 平成19年より東北大学病院助教
  • 平成20年より東北大学加齢医学研究所准教授。
  • 平成24年8月より東北大学東北メディカル・メガバンク機構 教授
  • 平成25年8月より東北大学加齢医学研究所 機能画像医学研究分野 教授
  • 平成29年4月より東北大学スマート・エイジング学際重点研究センター 副センター長
  • 令和3年4月より東北大学加齢医学研究所 臨床加齢医学研究分野 教授
    (分野統合の為、機能画像医学研究分野より名称変更)
  • 日本老年医学会代議員、日本放射線学会放射線診断専門医
  • 平成20年に第44回医学放射線学会秋季大会・学術展示優秀賞金賞、平成21年に第68回日本医学放射線学会総会・学会賞金賞等、これまで学会賞6回、論文賞2回。
  • 専門は大規模脳MRIデータベースを用いた脳の発達、加齢に関する研究。
平林 直樹
九州大学大学院医学研究院 心身医学/衛生・公衆衛生学
2006年九州大学医学部卒。洛和会音羽病院にて初期臨床研修を修了後、2008年九州大学病院心療内科に入局。2012年より久山町研究に従事。2019年より九州大学伊都診療所にて学生、教職員、地域住民のプライマリケアを担当し、久山町研究では生活習慣や心理社会的要因と脳の形態学的変化との関連についての研究に取り組んでいる。