リアルワールドデータの人材育成

【企画要旨】

保健医療介護ビッグデータ研究には、臨床医学・疫学・統計学のみならず情報工学の技術も必要であり、学際的な研究体制の構築が不可欠である。その担い手となる臨床家やデータアナリストは不足しており、その育成が急務である。厚生労働省科学研究・保健医療介護ビッグデータ人材育成研究班では、多数の個別技術(研究デザイン、データハンドリング、統計解析、論文執筆など)を体系化・一般化し、種々のビッグデータに応用可能な人材育成プログラムを開発・実践してきた。我々のこれまでの一連の取り組みについて紹介する。

【座長】

康永 秀生
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学 教授

【演者】

田宮 菜奈子
筑波大学医学医療系ヘルスサービスリサーチ分野 教授

  • 田宮 菜奈子
タイトル:
「急性期臨床から長期予後を見据えた視点―レセプト活用によるエビデンス」
要旨:
治す医療から治し支える医療への転換において、急性期の医療においてもその後を見据えた医療介護や地域の体制整備が重要となる。この点、レセプトデータは有効であり、特に介護と医療を突合分析することで、療養経過の把握が可能となる。
昨今、キャリアを積んだ臨床医が自身の臨床経験から、長期予後や地域の実態把握の必要性を感じ、共同研究を始める事例も増えてきた。本日は、心臓外科医としての臨床を経て、先天性心疾患の長期予後把握の重要性への思いから、保健所長に転身し実施したレセプト分析等をもとに、臨床経験から生まれたRQと、それに応える医療介護レセプト分析の実際をご紹介する。また、介護データの有用性と介護DBユーザー会のご案内も含めてお話させていただく。
略歴:
1986年 筑波大学医学専門学群卒業、1990年 東京大学大学院医学研究科博士課程社会医学専攻修了(医学博士)、1994年 米国ハーバード大学公衆衛生学部修士課程修了。1999年 南大和老人保健施設 施設長、2000年 帝京大学 医学部衛生学公衆衛生学教室講師などを経て、2003年 筑波大学 社会医学系(組織改変後 医学医療系)ヘルスサービスリサーチ分野 教授、2017年 筑波大学ヘルスサービス開発研究センター センター長兼任、現在に至る。2001年 日本公衆衛生学会奨励賞、日本公衆衛生学会理事(2017年~現在)。
山名 隼人
自治医科大学データサイエンスセンター 講師

  • 山名 隼人
タイトル:
「自治医科大学におけるリアルワールドデータ研究の人材育成」
要旨:
自治医科大学データサイエンスセンターでは、自治体の協力を得て介護レセプトを含むレセプトデータを県レベルで収集し、個人単位で連結したデータベースを構築している。このデータベースを活用し、研究立案からデータの切り出し・解析、執筆に至る一連のプロセスを実践することを通じて、リアルワールドデータ研究を遂行できる人材の育成を行っている。当センターでの取り組みとこれまでの研究成果、今後の展望について紹介する。
略歴:
自治医科大学データサイエンスセンター講師。東京大学医学部医学科卒(2011年)。東京大学大学院で公衆衛生学と臨床疫学を学び、東京大学大学院医学系研究科ヘルスサービスリサーチ講座特任助教(2018年)、同特任講師(2021年)を経て、2022年から現職。医学博士・公衆衛生学修士(東京大学)、臨床疫学上席専門家、社会医学系専門医・指導医。著書に『できる!傾向スコア分析:SPSS・Stata・Rを用いた必勝マニュアル』(金原出版)、『〈超絶解説〉医学論文の難解な統計手法が手に取るようにわかる本』(金原出版)、『統計手法のしくみを理解して医学論文を読めるようになる本』(新興医学出版社)。
大野 幸子
東京大学大学院医学系研究科イートロス医学講座 特任講師

  • 大野 幸子
タイトル:
「東京大学におけるリアルワールドデータ研究の人材育成」
要旨:
リアルワールドデータを用いた臨床疫学研究実施には、臨床医学、疫学、統計学に加えて、前処理のためのSQL言語や各種統計ソフトの取り扱いが必要となる。新たにリアルワールドデータ研究を始める若手研究者がこれらの知識・技術を体系的かつ短期間で習得できるように、東京大学内では、教材の継続的開発、ハンズオンセミナーの実施を行っている。本講演ではこれらの取り組みの一端を紹介する。
略歴:
東京大学大学院医学系研究科イートロス医学講座特任講師。北海道大学歯学部卒。東京大学公衆衛生大学院・医学博士課程を経て2017年、東京大学生物統計情報学講座特任助教。2020年から現職。医学博士・公衆衛生学修士(ともに東京大学)。共著書に『超入門! スラスラわかるリアルワールドデータで臨床研究』(金芳堂)、『超入門! すべての医療従事者のためのRStudioではじめる医療統計』(金芳堂)。
康永 秀生
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学 教授
タイトル:
「大規模データベース研究の人材育成―東京大学の取り組み」
要旨:
厚生労働省科学研究・保健医療介護ビッグデータ人材育成研究班において、東京大学の研究グループはこれまで、日本臨床疫学会との共催により、「NDB・DPCデータベース研究人材育成Webinar」などを開催してきた。セミナーでは、保健医療介護ビッグデータ研究で実績のある講師陣による講義・演習を提供し、短期集中で大規模データベース研究の計画立案から統計解析まで学習できる人材を育成してきた。本講演では、研究班のこれまでの実績を総括し、さらに今後の大規模データベース研究の人材育成の在り方について議論する。
略歴:
1994年東京大学医学部医学科卒。6年間外科系の臨床に従事した後、東京大学大学院医学系研究科博士課程(公衆衛生学)、東京大学助教、特任准教授を経て、2013年より東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学教授。日本臨床疫学会理事。機関誌Annals of Clinical Epidemiology編集長。専門は臨床疫学、医療経済学。