ドラッグロスを解決するために必要なこと医薬品の価値とは??

【企画要旨】

ドラッグラグはPMDAの体制強化、病院の臨床研究体制の整備、新薬創出加算により大幅に縮小してきたが、昨今の材料費の高騰、円安、薬価制度の見直しなどを背景にドラッグラグは拡大し、日本で開発される見込みのないドラッグロスの状況も出てきている。
そこでドラッグロスの問題を解決するために産官学連携委員会で本シンポジウムを企画した。
改めて医薬品の真の価値を問うとともに、ドラッグロスを縮小するために何が必要かディスカッションする。

【座長】

宮田 俊男
東京大学大学院医学系研究科臨床疫学・経済学 教授

  • 宮田 俊男
略歴:
1999年 早稲田大学理工学部機械工学科卒業
2003年 大阪大学医学部医学科卒業
2003年 大阪大学第一外科入局
2009年 大阪大学大学院医学系研究科心臓血管外科学特任助教を経て、厚生労働省に入省
2011年 厚生労働省医薬食品局審査管理課課長補佐
2013年 内閣官房健康・医療戦略室補佐官、国立がん研究センター政策室長
2015年 大阪大学産学共創本部特任教授
2016年 みいクリニック代々木 院長
2017年 医療法人DEN 理事長、厚生労働省参与2020年 早稲田大学理工学術院教授

【演者】

藤原 康弘
独立行政法人医薬品医療機器総合機構 理事長

  • 藤原 康弘
タイトル:
「薬価関連以外でドラックロスを解決するために我々がおこなうべきと考えること(私見)」
要旨:
欧米先進国において臨床開発段階又は承認済みであるにもかかわらず、わが国では臨床開発、申請、承認のいずれにも至っていない医薬品が近年増加傾向にあること(従来のドラッグ・ラグとは区別して、ドラッグ・ロスと呼称)が広く認知されてきている。
本シンポジウムでは、薬価問題以外で、我々(アカデミア・薬事規制当局)がドラッグ・ロスを改善することに、どのように貢献できるかの私見をお話したい。PMDAのアジア事務所・米国事務所開設の構想と世界への「日本の見える化」推進、国際共同臨床試験・治験をリードできる製薬企業と医療機関の体制の構築、CROやSMOに依存し過ぎない自立した医療機関による臨床試験実施体制の構築と医療者の意識改革、などについて述べたい。
略歴:

(独)医薬品医療機器総合機構 理事長

1984 年広島大卒
呉共済病院 研修医
国立がんセンター病院内科レジデント、
同研究所薬効試験部研究員を経て

1992 年広島大学病院総合診療部助手。
その後、メリーランド大等で臨床薬理学、第Ⅰ相試験を研鑽。
1997 年から国立衛研・医薬品医療機器審査センターで新薬承認審査に従事。
2002 年国立がんセンター中央病院へ戻り、
07 年 臨床検査部長。
08 年 臨床試験・治療開発部長
10 年 副院長(経営担当)、乳腺科・腫瘍内科長
12 年 センター執行役員 企画戦略局長
15 年 中央病院副院長(研究担当)併任
2019 年4 月より現職

2011~13 年 内閣官房 医療イノベーション推進室(現 健康・医療戦略推進本部)次長

日本臨床腫瘍学会理事(2019 年学術集会 会長)

日本呼吸器学会 呼吸器専門医

山本 晴子
国立循環器病研究センター

  • 山本 晴子
タイトル:
「がん・難病だけ? 「ありふれた疾患」にもあるドラッグロスの危機」
要旨:
ドラッグラグやドラッグロスという言葉は、がんや難病とセットで使われることが非常に多く、多くの場合適切ではある。一方で、難病ではない「ありふれた疾患(common diseases)」にも、いくつかの要因が重なればドラッグロスは起こりえる。現在、脳梗塞超急性期のtPA投与は標準治療となっているが、tPA製剤のアルテプラーゼの国内承認に欧米と比べて9年のドラッグラグがあったことは一般にあまり認識されていない。現在でも、脳卒中の超急性期における企業治験は非常に低調である。本講演では、日本人にとって非常にありふれた疾患である脳卒中を例として、ありふれた疾患に潜むドラッグロスの危険性を取り上げたい。
略歴:
1988年大阪大学医学部卒業。1991年より国立循環器病センター脳血管内科レジデント。1995年にスイス・ローザンヌ大学病院神経内科留学。帰国後、大阪大学医学部第一内科を経て、2000年に国立医薬品食品衛生研究所医薬品医療機器審査センターにて新薬審査業務に従事、2002年より内閣府科学技術政策担当へ出向。2003年より国立循環器病センターに戻り、2010年より国立循環器病研究センター先進医療・治験推進部長。2014年より理事長特任補佐兼任。2020年10月より医薬品医療機器総合機構医務管理監・理事長特任補佐。2023年4月より国立循環器病研究センターデータサイエンス部長。
福間 真悟
京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授

  • 福間 真悟
タイトル:
「ドラッグロスの問題に臨床疫学研究は貢献できるか?」
要旨:
海外で使用可能な薬剤が日本で使用できないドラッグロスの問題が大きく指摘されている。海外と比較して日本で治験を行うことが難しくなってきたために、エビデンスの国際間ギャップが生じていることが大きな理由である。臨床疫学研究では、リアルワールドに蓄積されるデータを活用し、医療や健康の問題を観察し分析し、エビデンスを創出する。臨床疫学研究の分析デザインを工夫すれば、質の高い有効性・安全性調査を市販後調査として実施することも可能である。本セッションでは、ドラッグロスの問題を解決するために、臨床疫学研究は何が貢献できるのかについて考察する。
略歴:
【学歴・職歴】
2002年 広島大学医学部卒業
2002年-2010年 内科医師として勤務
2010年-2013年 京都大学大学院医学研究科 博士課程
2013年-2017年 京都大学医学部附属病院、特定助教、特定講師、特定准教授
2017年-現在 京都大学大学院医学研究科 人間健康科学系専攻 准教授
【所属学会】
日本臨床疫学会、日本疫学会、日本内科学会、日本腎臓学会、日本透析医学会、日本プライマリ・ケア連合学会
谷藤 道久
日本製薬工業協会 産業政策委員長

  • 谷藤 道久
タイトル:
「ドラッグラグ・ロスをこれ以上拡大させないために」
要旨:
現在、日本の医薬品市場では、新薬導入の遅延や途絶、いわゆるドラッグラグ・ロスが拡大しています。製薬協での実態調査によると、ドラッグロスは小児領域や難病領域をはじめとする幅広い疾患領域において、薬事や薬価など様々な要因によって起こっていることがわかりました。小児領域や難病領域等の新薬開発の多くは、スタートアップ企業が担っていますが、予見性の低い薬価制度や複雑な薬事規制要件等が日本市場へのアクセスの障壁になっています。今後、ドラッグラグロスの拡大を防ぐには、開発環境だけでなく薬価制度にも焦点を当て、スタートアップ企業が日本市場にアクセスしやすい環境を整えることが重要です。
略歴:
1990年3月 東京大学大学院薬学部薬学研究科 修士課程修了
1990年4月 田辺製薬㈱ 入社
(2007年10月1日付 三菱ウェルファーマ㈱と合併・田辺三菱製薬㈱に社名変更)
2015年10月 当社 渉外部長
2017年4月 当社 総務部長
2018年4月 当社 グループ理事 ミツビシタナベファーマヨーロッパ社長
(欧州出向)
2019年4月 当社 理事 経営企画部長
2021年4月 当社 執行役員 経営戦略部長
(担当)医療政策部
2022年4月 当社 経営戦略部長
(担当)医療政策部
2022年7月 当社 ファーマ戦略本部 医療政策・マーケットアクセス管掌(現任)
2023年5月 日本製薬工業協会 産業政策委員会 委員長(現任)
現在に至る

【指定発言】

安川 孝志
厚生労働省保険局医療課 薬剤管理官