COVID-19ワクチンに対するエビデンス創出に向けた連結データベースの構築と利活用

【企画要旨】

国内外における COVID-19の流行により、AstraZeneca(AZ)をはじめ多くの製薬会社でワクチンの開発が精力的に行われた。一方、緊急対応として開発されたことにより臨床試験段階では組み入れることが困難であった患者集団への有効性・安全性評価、および長期にわたる患者予後への影響の検討が必要となる。これらを迅速、かつ精度よく明確にするためにはリアルワールドデータの活用が必要になる。
しかし、本邦においては、実臨床下でのCOVID-19ワクチンの有効性・安全性の評価を実施する場合、COVID-19ワクチンの接種情報と感染情報、接種後の臨床情報等が紐づいていないため、既存のデータベースでの評価には限界を有する。このような限界を解決する一つのアプローチとして、複数のデータベースの統合が考えられる。しかし、AZのみでは不可能であり、行政機関との連携や大規模データにおけるデータ加工・統計解析など、研究実施に関して、多くの困難が存在する。
本セミナーではAZが直面したワクチンの課題に対する解決策として接種情報とレセプトデータの統合データベースの構築と利活用した事例を紹介し、COVID-19ワクチンに関する知見とデータベース構築・統計解析時に生じた課題と解決方法、さらに今後の展望を発表する。

【座長】

堀江 義治
アストラゼネカ株式会社 Medical Data Science 部長

【演者】

田中 倫夫
アストラゼネカ株式会社 執行役員 Medical 本部長
上村 鋼平
東京大学大学院情報学環・学際情報学府 准教授

【プロフィール】

堀江 義治
1987年にアストラゼネカ株式会社の前身である藤沢アストラゼネカ株式会社に入社。抗潰瘍剤オメプラゾール、麻酔薬ロビバカイン、喘息治療薬ブテソナイドの臨床開発に従事した。
1999年にドイツ系製薬会社に転職。統計解析業務を担い、新薬開発を実施した。2005年臨床統計学のPhD.を取得。グローバルにおける循環器・代謝領域における解析責任者としてFDA、PMDA、およびEMAとの交渉、議論に参加して多くの薬剤のグローバル開発に貢献した。
2008年からは日本法人のバイオスタティクス&データサイエンス部統括部長として日本での統計解析業務、データマネジメントの標準化を行い、多国共同臨床試験、およびグローバル新薬開発での日本の役割を確立した。また、中国支社におけるバイオスタティクス&データサイエンス部の設立に尽力した。
2018年に現職に就任後はアストラゼネカ株式会社でのリアルワールドデータ(RWD)の利活用を幅広くリードするとともに、RWDを解析する基盤を日本で構築、グローバルとのRWDの相互利用、データベース研究の実施をマネジメントしている。
田中 倫夫

1997 年、アストラゼネカの前進であるゼネカ株式会社に入社。乳がん領域の化合物の日本製品チームのメンバーとして活躍。2000 年に乳がん治療剤「アリミデックス®」の輸入承認取得の際には、日本で初となる海外臨床試験成績を用いる「ブリッジング」手法を取り入れた。幅広く規制、臨床開発、ファーマコビジランスなどに関わる業務を歴任。規制当局との交渉も多く経験し、当局の合意を得るのが困難なために日本の製品パイプラインでデッドストックとなっていた「ネキシウム®」並びに経鼻インフルエンザワクチンの開発交渉に成功した。

2009 年からはAstraZeneca 英国マックルズフィールド(Macclesfield)の戦略チーム並びに製造・サプライチェーンの本拠地にて、オンコロジー領域のグローバルプロダクトチームのリーダーを務めた。更には、他社と共同開発を行う上でのアライアンスマネジメントフレームワークを構築し、企業やアカデミアとの共同研究・開発を推進した。

2012 年に帰国し、研究開発部門にてオンコロジー、ニューロサイエンス、感染症領域における製品開発を統括。特に、経鼻インフルエンザワクチンでは、日本初となる大規模臨床試験を含むインフルエンザワクチン開発の新たな形を示した。

2016 年からは、サイエンス&データアナリティクス統括部を率い、欧米とのタイムラグを最小限に抑え早期にJNDA(新薬承認申請書)の提出を可能とするために、独自のCTD(コモン・テクニカル・ドキュメント)を構築すると共に、国立研究開発法人情報通信研究機構(NICT)並びに製薬会社有志との協業をリードして製薬およびグローバル医薬品開発に適合したニューラル機械翻訳エンジンを導入するなど、戦略面に加えオペレーション面でも会社に大きく貢献。

2020 年から2022 年にかけては、パンデミックワクチンプロジェクトの日本リードとして、新型コロナウイルス感染症ワクチン「バキスゼブリア™」の日本政府との供給契約締結、日本における製造体制の構築、緊急承認取得といった一連のプロジェクトを統括した。

2022 年9 月より現職。

上村 鋼平
2009年 東京大学大学院医学系研究科博士課程修了.博士(保健学)
2009年~2014年 医薬品医療機器総合機構 新薬審査第四部 生物統計担当
2014年~2017年 同再生医療等製品審査部,ワクチン等審査部 生物統計担当
2017年~2021年 東京大学情報学環特任講師
2022年~現在 東京大学情報学環准教授