人類学の視点から見た臨床疫学―肥満と糖尿病を中心に

【企画要旨】

21世紀は様々な病気が、地域を越えて拡がる世紀となった。COVID-19の世界的な蔓延の中で、WHOが世界肥満パンデミックを宣言し、対策を求めたことからも明らかなように、非感染性疾患も全世界的な視点から、対策を考えるべき時代になったことがうかがえる。それと同時に肥満や糖尿病など種々の非感染性疾患にも、いわゆる人種によって相違があり、それを考慮に入れた臨床疫学の重要性が、指摘されるようになった。例えば日本、中国などの東アジア地域では、肥満は少ないにもかかわらず糖尿病は極めて多いことが問題となっている。糖尿病は、東アジアの病気であるとする考え方が広がりつつあり、国際糖尿病連合(IDF)も早急な対策を呼び掛けている。
このような地域による病気の相違については、環境要因のほかに遺伝的相違が問題となっており、若干の遺伝子が候補として指摘されている。人種という言葉を避けるなら、個人の遺伝的祖先(genetic ancestry)を考慮に入れた臨床疫学の時代となりつつあると言えよう。肥満と糖尿病を中心とした臨床疫学の今後の動向について述べることとしたい。

【座長】

川上 浩司
京都大学大学院医学研究科
社会健康医学系専攻 薬剤疫学分野 教授

【演者】

井村 裕夫
日本臨床疫学会 最高顧問/京都大学名誉教授・元総長/日本学士院会員

【プロフィール】

井村 裕夫
京都大学名誉教授、日本学士院会員・前院長、アメリカ芸術科学アカデミー外国人名誉会員。
1954年京都大学医学部卒。内科学特に内分泌代謝学を専攻し、神戸大学教授、京都大学教授、京都大学医学部長を経て、1991~7年京都大学総長。この間、日本内分泌学会会長、同理事長、国際内分泌学会会長、名誉会長などを歴任。京都大学退官後は、総合科学技術会議議員としてわが国の科学技術政策の策定に関わり、さらには科学技術振興機構研究開発戦略センター首席フェローとして「先制医療」など医学の新しい方向について提言をとりまとめた。