【ランチタイムセミナー】便秘治療のエビデンスとその先へ

11.3/12:00〜13:00

【企画趣旨】

臨床現場では、あらゆる専門領域の医師が「便秘」を訴える患者さんに何らかの処方をしている。排便の質は、消化管そのものの健康状態のみならず、患者さんの食習慣や運動習慣を含む生活習慣、自律神経のバランス、精神状態などを総合的に反映している大変重要なインディケーターでもある。
薬物治療に関しては,わが国では従来から刺激性下剤の濫用が指摘されてきた.昨今新しい便秘治療薬が開発され,わが国でも臨床使用が可能になった.けれども新しい薬=よい薬,と短絡的に捉えないほうがよい.個々の薬剤の作用機序,効果,有害性をよく理解したうえで選択すべきであろう.特に慢性便秘症では長期間の治療が必要なため,経済性は重要な要素となる.
今回、様々な臨床研究を計画・遂行されている日本臨床疫学会会員の皆様に、被験者のQOLに実は大きな影響を与えている可能性のある「便秘」について改めてお考えいただく機会となるよう企画させていただいた。

【演者】

上野 文昭
大船中央病院 特別顧問、米国内科学会(ACP)日本支部 元代表理事

  • 上野 文昭
タイトル:
慢性便秘症のHigh Value Care
要旨:
多くの人は便秘を病気とはとらえていません.もしかすると医師も同様でしょう.慢性便秘症は,定義・病因・病態・疫学・症候・診断学・治療体系・合併症・予後などが確立している立派な疾患概念です.疾患を正しく理解しないと,ネット情報などで知識をつまみ食いして,安易な薬物治療に走りがちです.従来から横行している刺激性下剤の濫用や,目新しい治療薬に無思慮に飛びつくことなどは避けなければなりません.ACP(米国内科学会)の提唱しているHigh Value Careでは,コスト,リスクなどを含む損失を最小にとどめながら最良のアウトカムが得られる診療を推奨しています.便秘症に関する内外の診療ガイドラインは,有効性のエビデンス重視で,実際の診療では不十分です.適切な病歴と診察から病因・病態を考察し,最小限の必要な検査を加え,非薬物・薬物治療でアウトカム改善を図る努力が必要です.偉大なOsler先生の教えに想いを馳せながら,便秘症のHVCについて述べたいと思います.
略歴:
慶應義塾大学医学部卒業後,米国空軍立川病院を経て,Tulane大学内科臨床研修課程修了,米国内科専門医となる.帰国後東海大学内科入局,茅ヶ崎徳洲会病院,東海大学大磯病院の創設メンバー.2004年より大船中央病院特別顧問.
米国内科学会(ACP)日本支部長,米国消化器病学会(ACG)国際関係委員会議長などを歴任.ACPおよびACG最高栄誉会員(MACP, MACG),米国消化器病学協会(AGA)上級会員(AGAF).主な診療研究領域は消化器内科,消化器内視鏡,炎症性腸疾患など.近年は,最良のアウトカムを目指した患者参加型診療のためのコミュニケーションスキルの習得と普及に努めている.
趣味は昭和のクルマ,アナログレコード,温泉探訪.
清水 さやか
一般社団法人 PeDAL 研究部門長
京都大学 特任助教

  • 清水 さやか
タイトル:
慢性腎臓病での便秘治療 血液透析領域でのエビデンス
要旨:
血液透析を要する慢性腎不全患者では、食事や水分摂取の制限、身体活動量の低下、腸内細菌叢の異常、併存疾患、薬剤などの多様な特性により、一般人口よりも便秘症の有病割合が高いと言われています。また、便秘症はQuality of Lifeを損なうだけではなく、心血管イベント、死亡などとも関連することが示唆されている疾患です。透析医療においては、貧血、電解質などの多数の管理目標がありますが、便秘症もその重要な一領域となってきていると言えます。
過去の日本からの報告では、透析診療での処方の大多数は刺激性下剤でした。しかし、新しい機序の便秘薬の登場や、血液透析でのマグネシウム管理目標についての新たなエビデンスから、透析医療における便秘治療は転換期を迎えているようです。これまでに分かっていること、また、今後期待される研究成果について、血液透析レジストリデータからの最新の便秘症の診療実態とともにご紹介します。
略歴:
東京大学2006年卒業。国保旭中央病院にて内科研修後、聖マリアンナ医科大学にて腎臓内科研修。2013年京都大学大学院入学、福原俊一教授のもとで臨床疫学を学ぶ。2015年より同大学院特定助教、2019年より特定非営利活動法人 健康医療評価研究機構 研究事業部部長、2023年より現職。住民コホートの運営、尺度開発などのほか、血液透析領域ではレセプト等の診療データを活用した疾患レジストリの運営・解析論文化に従事。

【座長】

筧 善行
香川大学 前学長
略歴:
  • 1981年3月
    京都大学医学部卒業
  • 1989年3月
    京都大学大学院医学研究科修了(医学博士)
  • 2001年4月
    香川医科大学泌尿器科教授(2003年大学統合で香川大学教授)
  • 2015年10月
    香川大学理事・副学長
  • 2017年10月
    香川大学学長
  • 2023年10月-
    香川大学イノベーションデザイン研究所所長