【シンポジウム】機械か? 人間か?

【企画趣旨】

プログラム委員 山崎 大(京都大学)

機械学習が臨床研究に応用されるようになってきているが、手法の中身を理解できる臨床家は少ない。一方、Logistic回帰分析等の従来の手法は、臨床家でも体系的な学習を受ければ、比較的理解が容易なものである。本シンポジウムでは、臨床家が主に取り組むテーマである「診断・予測研究」と、「因果関係を検証する研究」を取りあげ、機械学習と従来の手法のPros & Consを議論する。そして、臨床家の人間的判断が高度に発展した臨床研究において、どのような役割を果たすのかを明らかにしたい。

【演者】

井上 浩輔
京都大学白眉センター・大学院医学研究科 特定准教授
Practical Causal Inference Lab, UCLA

  • 井上 浩輔
タイトル:
機械か? 人間か?(因果推論パート)
要旨:
近年の因果推論(原因と結果の間にある因果関係を考えるアプローチ)および情報科学の急速な発展に伴い、臨床疫学領域においても因果推論の枠組みに機械学習を用いることの有用性について期待が高まっている。一方で、いつどのような問いに対して機械学習を用いることが適切か・効率的であるか、どのように実社会・医療現場へ応用できるか、といった点は十分に明らかでない。正しく因果効果やその異質性(個人の属性による因果効果のばらつき)を評価することは、効果的な介入・施策の決定だけでなく、医療資源の最適分配および健康格差の是正にもつながる点で重要である。そして、臨床疫学において正しく機械学習を応用するためには、人間を対象とした臨床の知見が欠かせない。本セッションでは臨床疫学研究における因果推論および機械学習の応用について、①集団全体における平均因果効果の推定と②効果の異質性を評価する手法を中心に、各手法の意義および限界点・留意点を踏まえて概略を紹介する。
略歴:
2013年 東京大学医学部卒。国立国際医療研究センター、横浜労災病院を経て、2021年 UCLAで博士号(疫学)取得。同年4月より京都大学大学院医学研究科 社会疫学分 野 助教、2023年4月より同分野及び京都大学 白眉センター 特定准教授。医学部付属病院 糖尿病・内分泌・栄養内科で診療にも従事。International Journal of Epidemiology編集委員、伊藤病院 疫学顧問。主な研究テーマは、臨床医学における因果メカニズムの解明と、社会背景因子によるその異質性評価。2023年に提唱した「高ベネフィット・アプローチ」が評価され、MITテクノロジーレビューの「未来を創る35歳未満のイノベーター」の1人に選出された。
高田 俊彦
福島県立医科大学白河総合診療アカデミー 准教授
Julius Center for Health Sciences and Primary Care, Visiting Researcher

  • 高田 俊彦
タイトル:
機械か?人間か?(予測研究パート)
要旨:
医療者はいつも臨床現場で“予測”しながら動いている。患者の抱える健康問題の原因は何だろうか(診断予測)、患者の状態はどう変化しうるだろうか(予後予測)。医療者の予測を支援するためのツールを開発・検証するための研究を臨床予測モデル研究という。本研究分野では、従来はロジスティック回帰モデルのような統計モデリングを応用してきたが、近年では機械学習を用いたものが急増している。しかし、従来の統計モデルと機械学習それぞれの長所・短所を踏まえた上で両者をどう使い分けるかについて十分に検討せず、ただ流行に乗って機械学習を応用しただけの研究を目にすることも残念ながら少なくない。本セッションでは、従来の統計モデルと機械学習の使い分けについて掘り下げると共に、機械学習を用いた予測研究の問題点、これからの課題について紹介する。
略歴:
千葉大学附属病院総合診療部において、診断学を重視した診療および研究の修練を積んだ後、福島県立医科大学白河総合診療アカデミーの立ち上げに参加。オランダのユトレヒト大学で診断精度研究や予測モデル研究に従事した後、現職に復帰し、市中病院で臨床に携わりながら臨床研究を実践するモデルの確立に情熱を注いでいる。