Research Triangulation:複数の視点で研究テーマを捉える

2.21(土)15:15~16:45

【企画趣旨】

本セッションでは、ある研究テーマに対して多様な視点・手法・領域からアプローチすることを「リサーチ・トライアンギュレーション」として捉え、その考え方を実践されている研究者の先生方にご講演頂き、複眼的な研究の意義とその具体的な展開方法について議論する。

【演者】

山崎 大

京都大学 特定准教授


  • 山崎 大
タイトル:
膵内脂肪沈着と糖尿病・膵炎・膵臓癌の因果関係に迫る臨床疫学研究:画像・臨床・遺伝情報によるトライアンギュレーション
要旨:
膵内脂肪沈着は、膵腺房細胞や膵内分泌細胞内に脂肪滴として存在する場合もあるが、主として脂肪細胞から構成される。膵臓の10%以上に脂肪が沈着した状態は、地域住民の約2割にみられる最も一般的な膵病態の一つである。2014年、北海道の市中病院で内視鏡診療に携わる中でこの膵内脂肪沈着の存在に気づいて以来、その臨床的意義の解明に一貫して取り組んできた。膵内脂肪沈着は、膵β細胞機能障害を介して糖尿病の発症に関与し、また膵内脂肪細胞から分泌される炎症性サイトカインなどを通じて、膵炎や膵臓癌のリスクを高めることが示唆されている。これまで、CT・MRI・PETによる医療画像解析、縦断的な臨床情報との統合解析、さらに遺伝多型情報を用いたメンデルランダム化研究を通じて、膵内脂肪沈着と膵疾患の因果関係を複眼的に検証してきた。さらに、膵内脂肪沈着に関するグローバルコンセンサス形成において中心的な役割を担い、国際的な知見の標準化を主導している。本講演では、画像・臨床・遺伝情報を用いたトライアンギュレーション研究の成果と今後の展望について紹介する。
略歴:
北海道旭川市出身。2008年に宮崎大学を卒業後、札幌の手稲渓仁会病院にて8年間、消化器内科医として研鑽を積む。2016年、京都大学大学院に進学し、福原俊一教授のもとで臨床疫学を学ぶ。2019年に医学博士号を取得。同年より京都大学地域医療システム学講座の特定講師、2025年からは同講座の特定准教授を務める。あわせて、福島県立医科大学特任准教授および熊本大学客員准教授を兼任。消化器病専門医、臨床疫学上席専門家。

塩川 雅広

京都大学 消化器内科


  • 塩川 雅広
タイトル:
潰瘍性大腸炎の新規自己抗体の同定と臨床応用:基礎研究から臨床研究を通してのトライアンギュレーション
要旨:
潰瘍性大腸炎(UC)は原因不明の腸疾患であり、今日まで病因解明には至っていない。我々は、抗インテグリンαvβ6自己抗体がUC患者特異的に認められることを発見した。さらに、この自己抗体がUC患者の腸上皮細胞に結合すること、インテグリンαvβ6-フィブロネクチン結合を阻害すること、その抗体価が疾患活動性と相関することを見出した。班会議での多施設共同大規模研究でもUC患者で高率に陽性になることが明らかになった。また私達の報告以降、欧米のUC患者でも同抗体が陽性になることが報告され注目されてきている。
本講演では、抗インテグリンαvβ6自己抗体の診断・病勢マーカー、バイオマーカーとしての有用性や、病態形成における役割について概説する。また、現在企業と進めている診断薬開発、治療法開発についてもふれたい。これらを通して、データ・方法論・研究者・理論トライアンギュレーションの観点からも考察したい。
略歴:
三重県鈴鹿市出身。2003年に京都大学を卒業後、8年間、内科・消化器内科医として研鑽を積む。2010年、京都大学大学院に進学し、千葉勉教授のもとで基礎・臨床研究を学ぶ。2014年に医学博士号を取得。同年より京都大学消化器内科学講座の医員、2025年からは同講座の病院講師を務める。あわせて、2022年、自分たちの基礎研究の実用化の為にLink therapeutics株式会社を設立し取締役を兼任。消化器病専門医・指導医・評議員、消化器内視鏡専門医、内科専門医。

宮下 淳

福島県立医科大学白河総合診療アカデミー 教授
白河厚生総合病院総合診療科 部長


  • 宮下 淳
タイトル:
アドバンス・ケア・プランニングの話し合い実践に関わる社会心理学的要因:量的・質的・コンセンサス研究によるトライアンギュレーション
要旨:
アドバンス・ケア・プランニング(以下、ACP)は、超高齢社会の日本において人生の最終段階の医療・ケアの質向上に不可欠な要素となっている。しかし、個人の自律性を前提として発展した欧米型のACPを、日本の「家族中心的」文化の中でそのまま実践することは容易ではない。日本の医療現場では、家族の意向が本人の意思決定に大きく影響してきた。
日本の社会に適したACP実践のあり方を探るため、量的研究と質的研究を統合した研究トライアンギュレーションを実施した。まず、社会的ネットワークとACP実践との関連を定量的に把握し、続いて質的研究によって家族関係や介護経験など、社会的ネットワークがACP実践に関連するパスウェイにおいて重要なカテゴリーを抽出した。その後、質的研究で得られた仮説を再度量的に検証し、日本におけるACP実践に関連する家族的・社会心理学的構造を視覚化した。さらに、デルファイ研究を通じて日本版ACPの定義と行動指針を構築し、エビデンスを実装可能な形に結実させた。
本講演では、量的研究と質的研究、コンセンサス研究を組み合わせたトライアンギュレーションのプロセスを通じて、日本のACP実践に関連する家族関係や社会心理学的要因を同定し、日本の文化に適したACPモデルを策定するに至った課程と今後の展望を紹介する。
略歴:
  • 2003年京都大学医学部卒、社会健康医学博士
  • 日本内科学会総合内科専門医
  • 日本専門医機構総合診療専門医
  • 日本臨床疫学会上席専門家

洛和会音羽病院総合診療科、市立奈良病身総合診療科に在籍し、総合診療医として診断推論、高齢者医療を自身の臨床診療の柱として日々研鑽。2015年には白河厚生総合病院総合診療科/福島県立医科大学白河総合診療アカデミーの設立に関わり、以後現在まで白河厚生総合病院で総合診療医としての臨床と若手医師教育にたずさわりながら、アドバンス・ケア・プランニングに関する臨床研究を実施している。

【座長】

佐田 憲映

高知大学


  • 佐田 憲映
略歴:
  • 平成 9年
    岡山大学医学部医学科卒業
  • 平成 9年
    岡山大学医学部第三内科入局
  • 平成 9年 9月
    愛媛県町立宇和病院勤務
  • 平成11年10月
    松山市民病院勤務
  • 平成12年10月
    高知県立中央病院勤務
  • 平成14年10月
    岡山大学医学部第三内科 研究生
  • 平成17年
    岡山大学総合診療内科 医員
  • 平成18年6月
    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
    腎・免疫・内分泌代謝内科学 助教
  • 平成23年6月
    岡山大学病院 リウマチ・膠原病内科 講師
  • 平成27年11月
    岡山大学大学院医歯薬学総合研究科
    腎・免疫・内分泌代謝内科学 准教授
  • 平成31年4月
    高知大学 高知県臨床研究フェローシッププログラム
    整備支援プロジェクト 准教授(併任)
  • 令和2(2020)年4月
    高知大学臨床疫学(寄附講座)特任教授